アメリカと日本では公的健康保険制度が大きく異なる。日本では国民皆保険制度を導入しているが、アメリカでは基本的に65歳以上の高齢者と特定の重度障害者を対象としたメディケア(Medicare)と、低所得者を対象にしたメディケイド(Medicaid)の2制度のみである。

そのため、これらの制度の対象外となる人々は民間の保険への加入を検討する必要がある。しかし近年の医療費の高騰や健康保険料の上昇を理由に、保険未加入者が全米で約4,795万人(国民の約15%、U.S. Census Bureau 2012)に達している。また今後も医療費は引き続き高い水準で推移するといわれており、もし保険未加入の状態で医療機関を利用した場合は、高額な医療費を全額自己負担しなければならない。それを未然に防ぐためには、アメリカの健康保険について正確な知識を持ち、かつ自身のニーズに適した健康保険プランに加入していることが非常に重要となってくる。

 以下では、アメリカの健康保険を理解する上で必要な基本知識、日本で加入済みの保険の利用、および最新の動向を説明していきたい。

基本用語

  まずアメリカの保険を理解する上で必要な用語について説明する。

  • Deductible(年間当初自己負担額、あるいは保険会社免責額)
    保険会社から保険金給付が開始される前に、本人が負担する金額
    のこと。
  • Co-Insurance(保険会社給付割合)
    Deductibleを超えた医療費に対し、保険会社が保険金を支払う割合
    のこと。
  • Office Visit Co-Pay(定額支払い費用)
    診療所などの医療機関で診察を受けた場合に、その場で支払う所定の金額のこと。ネットワーク内(詳細は右記で説明)の医療機関利用の場合は、Co-Payの支払いのみで保険加入者の手続きが完了する。

  • Out-of-Pocket-Maximum(年間自己負担限度額)
    自己負担の年間上限額。これを超える金額は保険会社が100%負担する(これにDeductibleの金額が含まれるか否かは、プランによって異なる)。
  • R&C (Reasonable & Customary Charge)
    アメリカの医療費は完全に自由化されており、同じ種類の治療であっても、利用する医療機関によっては医療費が異なることが多い。そこで保険会社が加入者間の公平を図るために設定している制度。具体的には、当該地域における治療内容などから妥当な金額を保険給付の検討対象とし、これを超えるものは自己負担とすることを指す。

医療保険の種類

アメリカの医療保険には大きく分けて4つのタイプ― Indemnity、PPO、HMO、POS ―があり、それぞれのタイプで利便性や価格が異なる。現在最も主流なタイプがPPOであり、地域差はあるものの、約6割の保険加入者はPPOを利用している(4つのプランの簡単な比較として図1を参照)。

  • Indemnity
    医療費を保険加入者が立て替えた上で保険会社に請求し、請求を受けた保険会社が追って所定の保険金を本人に支払う。どの医療機関でも同一の給付内容で利用できるのがIndemnityのメリットだが、保険料は割高である。さらに医療費の全額を保険加入者がいったん立て替える必要があることも難点であることから、現在ではあまり一般的ではない。
  • PPO (Preferred Provider Organization)
    Indemnityの機能を元に、保険加入者の負担を軽減するべくできたのがPPOである。PPOとは保険会社と医療機関の間で医療費のディスカウント契約を結んでいるネットワークを指す(特定の保険会社が自社でPPOを保有することもある)。そのネットワーク内(In-Network)で受診した場合、基本的に保険加入者は医医療費を立て替える必要がない。また、特殊な病気でない限り、保険加入者がネットワーク内の医者に通院した場合は、Co-Pay(10〜25ドル程度)のみで済むのが一般的である。
    PPOではネットワーク外(Out-of-Network)の医療機関の診察を受けることも可能である。ただしこの場合、保険加入者が医療費をいったん全額立て替えなければならないのが一般的である。加えて、ネットワーク外の医療機関で診察を受けた場合は、保険加入者の負担がネットワーク内に比べて多くなることがほとんどである。これは保険会社が医療費総額抑制のため、保険加入者にディスカウントの効くネットワーク内の医療機関利用を促すことを目的としている。
     以上のことから、医療機関を利用する際は、その医療機関が自分の健康保険のネットワークに加入しているかどうかを事前に確認することが望ましい。また診察の予約を入れる際には、医師本人の名前を出して確認することをおすすめする。これは同じ病院内であっても、ネットワークに加入している医師と非加入の医師が混在している場合もあるからだ(図2参照)。
  • HMO (Health Maintenance Organization)
    保険加入者は、保険会社の提示するリストから主治医(Primary Care Physician)を指定し、その主治医が適切な医療を指示するプランである。また、主治医の紹介なしにほかの医者にかかることは原則認められない。保険加入者の利便性は限られてしまうが、医療費を制限できることから、比較的割安な保険料で加入することができる。
  • POS(Point of Service)
    PPOとHMOの中間プランである。主治医を設定する点はHMOと基本的に同じであるが、POSでは主治医の紹介なしにほかの医療機関を利用することが可能である。この場合はPPOと同様の取り扱いとなる。

歯科保険

概略は図3の通りであるが、治療内容を予防治療、基礎治療、高額治療の3つに区分し、それぞれ異なるCo-Insuranceを適用してプランを作成するのが一般的である。 医療保険の場合、Out-of-Pocket-Maximum(年間自己負担限度額)として自己負担の上限額が設定されている。しかし歯科保険の場合はこれとは逆に、保険会社負担のMaximum Benefit(年間保険給付限度額。1,000〜2,000ドルが一般的)を設定し、これを超える金額はすべて保険加入者が負担するプランが標準的である。また、日本の健康保険では対象外となる歯列矯正をカバーするプランをもある。
 医療保険とは異なり、歯科保険ではIndemnityタイプの普及率が高いものの、近年はPPOやHMOタイプのプランも登場してきている。

視力矯正保険

視力矯正保険は、その名が表す通り、視力矯正のための検査や眼鏡に対しての保険である。目の疾病や傷害による治療は、医療保険の補償対象となる。補償対象は視力検査、眼鏡のレンズもしくはコンタクトレンズ、眼鏡のフレームに対して、一定額までの支払いが保険会社からなされる。

健康保険への加入方法

  • 企業に勤務している場合
    アメリカでは、勤務する企業が健康保険プランを従業員およびその家族に提供することが一般的である。企業で加入している保険は、通常、個人で加入するよりも割安であることから、可能であるならば企業のプランに加入することをおすすめする。ただし、企業によっては家族を含めた全額の保険料を企業が負担するケースもあれば、従業員本人分のみの保険料を企業が負担し、その家族分は従業員が負担しなければならないケースもあるので確認が必要である。  保険会社によっては、対象者2名からでも企業健康保険プランの導入ができる場合もある。現在勤務している企業に健康保険プランがない場合は、最寄りの保険会社または代理店(以下ブローカー)に相談するとよい。
  • 学生の場合
    大学で学割プランを提供していることが多いので、まず大学事務所に確認するとよい。
  • 個人の場合
    ブローカーでは個人向けの保険を取り扱っていないことが多いため、自身で手続きを行う必要がある。具体的には、個人向けの健康保険を取り扱う保険会社に電話もしくはウェブサイトを通じて資料請求を行い、加入手続きを行う。なお、保険料は一般的に割高である。

アメリカのブローカー、保険会社について

  • 保険会社
    日本の生命保険会社の現地法人は米国日本生命1社のみ。同社では日本語専用のコールセンターを設置しており、日本語で相談することが可能。ほかはすべてアメリカの地場の保険会社となる。
  • ブローカー
    日本の生命保険会社の現地法人や地場の日系代理店があり、日本語で相談することが可能。保険加入希望者のニーズに応じた保険会社やプランを推薦してくれる。

日本で加入済みの保険の利用法

  • 日本の健康保険(健保)
    アメリカ滞在中も引き続き日本の健保に加入している場合、アメリカでの医療機関利用を海外療養費として、保険給付の請求をすることが可能である(ただし日本で保険の対象となる治療に限る)。プロセスとしては、まず自身で医療費をいったん立て替えた後、日本の健保に請求する。この際、診断書の和文訳を求められることが多い。詳細に関しては、自身の加入する健康保険組合もしくは市区町村に問い合わせる必要がある。
  • 海外旅行傷害保険
    自身で医療費をいったん立て替えた後、加入している日本の損害保険会社に請求する形が一般的であるが、医療費立て替えが不要な医療機関を持つプランもある。通常、歯科保険、妊娠・出産、既往症等などは保険給付対象外である。
  • 日本の生命保険
    日本国内と同じように、契約している約款に基づいた保険金、給付金などが支払われる。ただし、入院や手術給付金の場合は、「入院先が日本国内の病院または診療所と同等と認められた医療施設に限る」といった制約がある場合もあるので、注意が必要である。 ※上記のいずれの場合に関しても、手続きや保障内容などの詳細は加入している各保険会社に確認が必要である。

最新動向

2010年3月にオバマ政権による医療保険改革法(PPACA:Patient Protection and Affordable Care Act)が成立した。
同法の施策は2010年から2018年まで複数年に渡って順次施行されている。なかでも、とりわけ2014年には、以下のような医療保険改革の根幹となる多くの施策が施行となる。(2013年10月時点の情報)

個人への医療保険加入の義務化

ほぼ全ての米国国民、および合法的に居住している外国人は、医療保険に加入せねばならず、加入しない場合は課徴金を支払わねばならない。
  • 最低限必要な給付内容(Minimum Value)の導入

    企業が提供する医療保険は、一定レベルの給付水準を満たしていなければ、課徴金の対象となる。

  • ネット上の公的な保険取引所の設立

    ネット上にExchangeと呼ばれる、公的な保険取引所を設立し、保険加入の促進を図る。(なお、Exchangeを通じて購入した保険プランの開始時期が2014年1月1日以降であり、先行して2013年10月1日にExchangeを通じた保険加入が開始されている。)

  • Essential Health Benefitsの提供

    個人向け市場および小企業向け市場で提供される医療保険プラン(既得権プラン[注①]を除く)は、エッセンシャル・ヘルス・ベネフィット(Essential Health Benefits)」と呼ばれる基本給付パッケージ(検体検査や予防医療サービスなど10項目に挙げられる医療サービス)を保険給付対象としてプランの給付内容に含めなければならない。
  • 注①:医療制度改革法成立時(2010年3月23日)に既に存在していたプランのこと。これらのプランには既得権が付与され、医療保険改革法の一部条項が適用除外となる。

     同法により、個人への医療保険加入が義務付けられたり、公的な保険取引所が設立されたりと保険加入が促進されることで、ほぼ全国民(約94%)が保険をもつと試算されている。ただし、同法には一部国民からの反発も根強く、依然として政治的な駆け引きも継続されているため、今後の動向には注意が必要である。




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    picture 【執筆】 米国日本生命
    アトランタ支店
    林 剛太郎
    www.nipponlifebenefits.com